今朝のNHKの経済羅針盤は『虎屋』の特集。
驚いたことに、羊羹の製造は近代的で衛生的な工場で、ほぼ完全にオートメーション化されていた。伝統に安住せずに、時代に応じて味の変更もいとわない。長く続く伝統というのは、要するに変容の歴史なんだということが痛感される。
で、『変わらなくっちゃ』つながりということになるけど、フランスワインの話。やっぱりNHKでクローズアップ現代だったと思うけど、豪だチリだ南アだって新世界ワインがフランスに輸入されるようになって、歴史あるフランスワインが価格で負けて危機に瀕しているという。安価な輸入食材で国内農業が圧迫されてきているわが国の状況と似たような話だ。
ワインのグローバル化で、日本人の多くは安くてそこそこ美味いワインが楽しめるようになった、いわゆる受益者の側にいる。だけど、甲州など伝統的ワイン産地が、それによって影響を受けないわけがない。パイが限られているなら、すなわちゼロサムとすればだが。もっとも、甲州ワインは世界に類を見ない、和食にばっちり合う、極めて個性的なワインを作っているから、ネガティブな影響は深刻というほどには受けてないのかもしれない。
フランスワインに関しては、新世界ワインは例えばボルドーのクラッシーなシャトーワインを模倣した味を作ってくるから、直接影響を受けてしまうのだろう。その背後にある物語を、ドキュメンタリー映画『モンドヴィーノ』で知ることができる。
ロバートパーカーという天才ワインテイスターによって、多種多様なワインにわかりやすい100点法の点数がつけられるようになり、消費者としては購買判断の基準ができたと喜んでいる一方で、それがワインメーカーの経営判断を歪めているところが、よくわかった。パーカーの味覚に合う、濃厚芳醇で、新オーク樽香の顕著なワインばかりになってきた。そういうワイン造りに移行すれば、高い得点となり、ワインも売れる。
そういえば、安いワインは色も味も薄いってのが相場だったんだけど、最近の新世界ワインには、濃厚フルボディだけど安いなんてのも存在する。
で、パーカーの嗜好と相性のよい方向性のワイン造りのノウハウをもった(なんて公正な表現か疑問だけど)ミシェル・ロラン(業績紹介)というコンサルタントが世界的にもてはやされ、そういうワインを造る会社がM&Aを繰り返して各国に勢力を拡げてきたもんだから、世界中のワインの味が似てきた。そこらへんの事情を、ロバートモンダビがフランスはラングドックで買収に失敗し、イタリアはトスカーナでオルネライアを買収して創業者を追い出した話から、感じ取ることができる。
お友達同士のパーカーとロランが、マッチポンプの関係にあるところが、あまりに妖しくて可笑しい。ワインメーカーにとっては死活問題であって全然笑える話じゃないのだけど。
百年も前の畑の評価で値段が決まるのも馬鹿げているから、いいワインを造ればすぐに評価されて即いい値段がつくのはいいことだ。だけど、世界のワインがパーカーとロランの方向性、カベルネソーヴィニヨンとメルローばかり、フルボディだけど早熟のタイプばっかりになるってのは、いかがなものか。なるほど、この映画の問題提起もよくわかった。
ワイン業界の危惧は、私達がグーグルに感じている危機感にも似ている。
多様なサイトをそれなりに公正に評価してガイドしてくれるサービスは貴重な存在なんだけど、皆がそこに頼ることで権力の集中みたいな、歓迎できない現象が起こる。グーグルは、パーカーに対応する。するとグーグルで高い評価を得るためにSEOという人工的な措置が行われ、サイトの内容も歪められる結果となる。ここでは、ロランがSEO業者に対応する。
どの業界でも、評価軸を独占されると、同じ構造の問題は起こるだろう。
野放図なグローバリゼーションがもつ邪悪、その好例であろう。適正なコントロールが不可欠なのだ。コントロールを徹底的に排除しようとする勢力があるなら、それは権益を独占しようとする勢力であるかもしれないと一度疑ってみる必要がある。
日本は食糧自給率が40%で、もうやられちゃった後、という状況だけど、今後は保護主義と攻撃されようと、国内農業を再興するのが国家としてのリスク管理ではないか。そういうことまで色々と考えさせられる映画DVDであった。
ただ、生産地の気候の個性、テロワールに頼りきりで変化を放棄てのも、またひとつ極端に向こう見ずな能天気さかとも思われる。いずれ葡萄も、かいわれ大根や舞茸のように、植物工場で工業的に作られるようになる可能性大と想像するし、また、遺伝子工学でこれまでにない美味の品種が登場するというのも、夢物語と切り捨てるにはあまりに現実性のありそうな話。
さて、この映画DVDだけど、ワインの薀蓄が大好きな人じゃないと、全然面白くないだろう。隠れマニアを自負する自分も、見てて何回か眠りに落ちてしまった。