フラットな組織の時代である。
軍隊のように、指揮系統と階級がはっきりしている組織は、今や時代遅れであるかのようにも扱われ、敬遠されたりしている。だが、信頼性という点では、こうした階層型組織は依然として最強である。一方、フラットな組織は、クリエイティブな個人が集まってて、集団の目的もクリエイティブなアウトプットであるときに、はじめて効果を発揮する。フラットな組織が機能するためには、メンバーにある程度の自己管理能力が要求される。
なんでもかんでもフラットな組織が適切というわけではない。
IT関連では、総じて、米国シリコンバレーの企業風土がお手本になっている。自由なカルチャーという一方、日本人にはドライに過ぎる人間関係かもしれない。それでもIT系の職種では、この西海岸風のノリが職場風景の理想像となっていると考えてよいだろう。
ハックスシリーズは、実務のノウハウを熟知した大橋悦夫氏と、心理学者の佐々木正悟氏の絶妙なコラボによって成り立つ。心理学のオフィスでの応用というだけなら今をときめくNLPの実践というテーマに埋没してしまうかもしれないし、断片的な技術を列挙しただけだと、数多のリーダーシップ本や刹那的なノウハウ本と似たり寄ったりになってしまったに違いない。
なにより、フラット組織というのはまだ歴史が浅い。
チーム内の人間関係を良好に維持し、集団としての創造性・生産性を確保し、アウトプットを最適化することがゴールである。個人の創造性についての知見は役に立つがそれがすべてではない。ヘテロな特性をもった人達の集団を動かすには、それ相応のソフト的な裏付けが必要だろう。
本書で紹介されるのは、集団としてのマナーあり、会議術、オンラインサービスの利用まで、実に多様。最後には「リーダーシップからメンバーシップへ」なんてお堅い組織論まで披露される。
メンバーとは「コーチ」しあう関係だなんて、感動的。
大企業の組織では、メンバーはRAID5で並べられた冗長ディスクセットみたいなもんで、1つ壊れても他のディスクでカバーできるから、ディスクの障害を検出したらそのディスクは即効で接続解除され、かわりに、使わないでいた予備のディスクが迅速に自動的に使用開始される。大企業の人材も同様に運用される。すべての人は、代替可能、これが建て前。
よくいいますわな。人間が集団を作ると、上位10%の大活躍層と、下位10%のただメシ層と、それ以外の標準層に自然に分化すると。で、上位の人が離脱すると新たに大活躍する人が生まれ、下位の人が離脱してもやはり誰かがただメシ状態に移行する。
環境に応じて人間は役割を変え、組織は再構成される。人間は様々の役割に対応できるように柔軟にできているのだ。
だから、あらゆる人間を置き換え可能としておくことが、組織の管理職の重要なミッション、基本も基本の危機管理術。
だけど、知識社会にあっては、企業に力を与えるのは、個人だ。余人をもって変えがたい個人。だから、組織に関する話の多くは、知識社会に移行を始めた西暦2000年前後に、一旦白紙、反故になったと言っていいのかもしれない。
新しい組織論を心理学をベースに再構成しますよ、そういう宣言があってもいいかもしれない。古典とされるリーダーシップ論の本を今にして読んでみると、いささか古臭く感じてしまうというのなら、その理由は、環境の歴史的大変化ということになろうか。
理論家にとってもビジネスチャンスな時代到来。
さて、チームハックスと同じメンバーの前作『スピードハックス』は、チームハックスほどこなれた構成ではなかったように見える。それぞれのハックスは、2人の著者のどちらかの名前付き。チームワークではあるのだが、互い違いにそれぞれのアイデアが混ぜられて串刺し状に並べられた印象も無くも無い。
これは自分の創造性・生産性・モチベーションを維持するノウハウ。自分だから簡単ともいえるし、なんともならんとも言える。チームと言う複雑なエンティティも、ヘテロな人間も出てこないから、シンプルといえばシンプル。これまでの自己啓発書でもそれなりに扱われてきたテーマでもあり、NLPでいいじゃん、なんて無粋な捨て台詞も飛んくるやも。
このシリーズの原点が個人の生産性向上にあることは間違いない。すぐ役に立つという意味での利便性という点でも、個人のほうは間違いなく即効性を感じさせる。
だけど、発展性というか、潜在的なインパクトに考えが及ぶと、チームに関する方が圧倒的に面白いと感じるのは、ワタシの好みに過ぎないのか。そうでもないんじゃないか。
『EQ』のダニエル・ゴールマンも昨年『SQ』を出版した。SはSocietyのS、社会のSだ。
烏合の衆としての集団ではなくて、ヘテロな能力をもつ人達の集団。チームという言葉にはフラットな組織、ヘテロな能力のニュアンスを感じる。そういう高ポテンシャルチームが最高のアウトプットを生み出せるよう、環境整備するための指導原理みたいな理論。そういうのがあると、知識社会というめちゃ複雑な社会では、とても有難いのだろうなと感じる。
ちなみに、心理学者の佐々木正悟氏は7月に『ブレインハックス』を、大橋悦夫氏は『そろそろ本気で継続力をモノにする!』を8月に出版されている。ちょっと似たアプローチを『1分間マネージャー』の著者である心理学者ケン・ブランチャード氏に感じるのだが、ブランチャード氏は、異なるテーマを異なるゲストを共著者に迎えて上梓している。佐々木氏も、そういう手法でハックスシリーズの裾野を広げてゆくのかなあ、やっぱりと、外野は興味津々で見守る。